『それに、初めに言ったでしょ? あなた達に危害を加える気はないって。それにはカレンさんも含まれてるんだよ』
「お前、死神なのにいいのか?」 力ない声で俺が訴える。 それに少しはにかむように返ってきた答えは。『負は正の力には敵わないんだよ。それに生きている者を無理やりにでも亡き者にしてしまったら、理のチカラが働くからね。どちらにしろ自分にはできないんだよ』
だった。初めの方は何の事を言っているのか分からないけど、後の事に関しては何となく理解できる。つまり彼は死神だから死者しか連れていくことが出来ないのだろう。『これで約束も果たしたし、君たちともお別れだね。楽しかったよ。なるべくならすぐには会いたくないからみんなゆっくりしておいでね』
ニコッとすごい満面の笑顔を残して千夜は少しづつ消えていく。
『そうそう、伊織ちゃん。その君の力すごいね!!』
「「「「え!?」」」」今度こそ消えていなくなった。
皆の視線が伊織に集中し、伊織は下を向くことしかできなかった。その時私は――。
『そうそう、伊織ちゃん。その君の力すごいね!!』
「「「「え!?」」」」――あの[死神]さん最後に爆弾投げていったぁぁぁぁぁ!!
自分に向いているみんなの視線がなんだか痛くて、恥ずかしくて下を向くしかなかった。ソコは静かな水面に不釣り合いなくらいすごく空気が重かった。 湖に近づくにつれて雰囲気は悪くなり、それまでははしゃぐ声も聞こえていた女子組からも、その声は小さくなり聞こえなくなった。「着いた……みたいだけど、みんな体調悪くなったりしてないか?」 振り返って確認すると、みんな声は出さずにコクンとうなずくだけで返事する。 ここにいる人達はみんな一度はソレを経験して、ここの空気が重い事を感じているみたいだ。「それで、ここでどうするの?」「えと、水に入った後で皆さん変わってしまったと言ってました」 カレンと伊織が荷物を置いて浜を降りていく。「あ、待って待って」「やる時はみんな一緒にだよぉ~」 市川姉妹もその後に続く。 俺も急いで荷物を置きみんなのいる場所へと向かった。「せぇのぉ~三、二、一、はい!!」 ぽちゃっ ドボンっ ちゃぷ いろいろな方法でいろいろな個所を各々が湖に体をつける。 そのまま五分。「よし、みんな湖からいったん離れてくれ」「はぁーい」—―なんかこういう時みんな素直に従ってくれるんだよね。やりやすいからいいんだけど。なんかくすぐったい感じがするなぁ。「どう? 何か変わったりした人いるかな?」 女の子四人で顔を見合わせている。 俺が見たところ変わった様子は無いみたいだけど油断はできない。「そういえばさぁ……。私達って誰もカレシいないんじゃなかったっけ? これって検証になるの?」「いや、その検証も大事だけど、俺はこの場所を見たくなったんだよ」「へぇ~、どうして?」 こちらに振り返った響子に聞かれる。 カレンの言った事は間違いなくその通り、カレシも彼女もいない俺達ではソノ検証は出来ない。それは知っていた。なのに響子からの疑問[なぜ来たかったのか]に
俺たち藤堂義兄妹とカレン・市川姉妹はバスに揺られていた。総勢5人の遠出である。 俺達5人は〇市〇〇湖に向かっている。俺は一人だけ最後列の一つ前の席に腰を下ろしている。何故一人かというと、最後列で女子四人がきゃいきゃいしてるから。伊織も俺の隣の席にいたんだけど、途中でカレンに連れ去られてしまった。「なぁ、遠足じゃないんだからさ……」「何、シンジ君も混ざりたいの?」――それって、「来ないでね」の裏返しだろ? わかってんだよ。 この人達わかってんのかな? これから出るかもしれないところに行くってのに。まぁそういうモノを経験してる人達しかいないけどさ。なんというか完全に俺だけ浮いてる感じがいたたまれないんだよな。「一つ聞いていいいかな? みんな楽しんでないか?」「当たり前じゃない」 カレンにバッカじゃなぁ~い!! て顔された。姉妹はクスクス笑ってるし。前にいる高校生風の男子がスマホ向けてくる気持ちもわかるけどさ。俺の後ろは絵になるし。 それからバスに揺られる事二十分。 目的地近くのバス停で降りてここからは歩き。行きはバスだけど帰りはカレンのマネージャーさんが迎えに来てくれる事になっている。なんでもカレンはこの後に、某テレビ番組の[心霊・怪奇現象]のロケという仕事が入っているらしい。アイドルの登竜門的番組らしいけど……。 バス停からおよそ十分ほど雑木林の中の道を歩いていると、右手に相談者三人が合宿していた体育館が見えてきた。そして問題の湖までは更に歩いて十分ほどかかるというので、ひとまず体育館前で休憩する事にした。湖に行くときの万が一に備えるためでもある。「う~ん、楽しかったねぇ」 そんな軽い感じでカレンがみんなに言ってるけど、この旅の本番はこれからなんだけどなぁ。「お義兄《にい》ちゃん、湖の近くに民家があるみたいだから、何か話が聞けるかもしれないよ?」「うん、ありがとう伊織」――ウチの義妹《いもう
それを読んだ俺は頭に浮かんだことをそのままクチにしていた。「その5人の中で、あなた達二人だけカレシがいたんですね?」 その問いかけに二人とも力なくうなずいた。 伊織の見せてくれたサイトには画像付きのでその場所の説明がされていた。 〇市〇〇にある〇〇湖は、[カップルまたはカレシ・カノジョがいる者が、その湖面に触るとその湖の呪いにかかる]と言われている。その昔に近所に住む男女が恋に落ち、生涯を誓い合ったが、その村同士のいさかいに巻き込まれて二人を別れさせようとした。その事から逃げるように二人で心中しようとしたのだが、女は亡くなりその後男の姿だけが見つからないままだった。女は男が逃げ出したと思いその男が来るまでその湖でまっているがなかなか現れず、次第に裏切られたと思い込み、男女仲良いモノがその場に触れる度、そのモノ達に呪いをかけている。と、サイトの紹介分には書かれていた。「すると二人のカレシも同じ目に?」 読み終えた俺が顔を上げ二人に聞くと……。「それが……。彼は何ともないみたいで……」 と遠野が。「私の方も何ともないみたいなんです」 と妻野。 先ほどの会話を思い出す。――あれ? さっき三和はこう言っていた。……最近は私にも……と。 なら逆に言うと最初は見えていなかったという事だ。この違い。遠野・妻野と三和の違いとは何か……。わからん。「あの、失礼ですけど三和さんて最近彼ができたんですか?」 伊織から質問が飛んだ。――あ、あぁ~~~なるほど!! そういう事か!! すげぇな伊織!! クチに出して言えないから、隣の伊織の頭をなでなでしてやった。 思わずやっちゃったけど、伊織も嫌がってないみたいだし、良しとしよう。 ビックリしたような顔をして、伊
あの後? まぁカレンと口論になり、伊織と響子が止めに入って三和があきれて、笑い出す響子っていう、おかしなことになりました。 そんなことがあった二日後、俺と伊織、響子と三和の四人でその二人と待ち合わせする場所で待っている。ちなみにカレンがいないのは「アイドル業が忙しいから」だそうで、俺との口論はまったく関係ないらしい。現に俺のケータイには「状況は教えてネ(^^)」って顔文字入りのメールが来てるから。 ここは俺達義兄妹の住んでる場所から駅二つ分だけ隣の場所で、どちらかというとカレンや響子たちの家や学校に近い。要するにこの辺一帯は|清桜《せいおう》学園の生徒たちが多い場所なのだ。 その学校の近くの噴水のある公園内で俺たちは待っていた。 少しの間日常会話をしていると、そろいの制服で歩いてくる二人の女の子が遠目から見えた。「あ、来ました。お~~い!! こっちこっち!!」 歩いていた二人も気づいたようでパタパタと走ってくるのが見える。 俺には遠目に見えた時点で顔までは見えなかった。やっぱり運動してる人ってすげぇなぁって感心した。「えと、紹介します。この髪の長い子の方が遠野弘子《とおのひろこ》。で、髪の短い方が妻野裕子《つまのゆうこ》二人とももちろんバドミントン部です」 二人ともペコっと挨拶したけど、なるほど見るからにあまり体調は良くなさそうだ。特に遠野という子はもう青白い顔をしている。そして大事なのは二人から同じアノ感覚がする。 間違いなくこの二人はその影響下にあるみたいなんだけど。確かに感覚はするんだけど……直接的に憑いてるとかじゃないみたいで今は対処できそうにない。「今日はここまで来てくれてありがとう。体調はどう?」「えと……あなたが藤堂くん?」 と遠野。「なんかちょっと……」 と妻野。――う~んその先を聞きたいような、聞きたくないような。言いたいことは何となくわかっ
十分後。「お義兄《にい》ちゃぁぁん!ごはんできたよぉぉ!」 伊織からのゴハンの呼び出しに応えて部屋を出ていく。「はぁぁ~」 この時もまだため息は止まらなかった。 用意されてるゴハンを見ながら自分の席に着く。「義母《かあ》さんと父さんは?」「お母さんは急患だって帰ってこれないみたいで、お義父さんは事件で帰れないんだって」「そうか……」「何か考え事?」 伊織にそう問われ、自分の本心を言うわけにもいかず、響子に相談を持ち掛けられたことを話した。 う~んとうなりながら伊織が考え込む。「お義兄ちゃん、その相談私も加わっていいかな?」 俺のハシが止まった。「な、なんで?」「ちょっと……考える事あって……かな?」「そうか、うん……いいんじゃないか」「良かった。よろしくね、お義兄ちゃん」――この見た目が可愛い娘のニコってのは殺人級の威力があると兄は思うのです。 数日後「ごめんね伊織ちゃんまで来てもらって」「いえ、お義兄ちゃんが心配なだけですから」 カレンと伊織が仲良さそうにきゃーキャー言いながら話している。 俺はというと……中に入って行けないからコーヒー飲んでます。 響子が今日の相談者と来る予定になっていて、少し遅れてくるらしい。今はその隙間の時間だ。「おまたせぇ。ごめんねぇ」 パタパタと走って席の隣へとやってきた。「紹介するね。こちらが今回の相談者で友達の|三和玲子《みわれいこ》さん」 響子の後ろからつきて来ていた女の子がペコっと頭を下げた。「は、初めまして。私は三和玲子と言います。今日はありがとうございます」 この三和という女の子だけど、外見は肩くらいまでの黒髪ストレート、細身でスラっとしていて
この場所は人は来る。来るのにあの人の姿は見つけられない。私はアノ人を待っている。 だけど、いくら待ってもあの人は来ない。 だから寂しくなる。 ここには寂しい感情しかない。感情がわくのはその事だけ。側に、誰か側にいて欲しい。 私はそれを願うだけ。 できる事ならあの人にいて欲しい……。 でもそれは叶わない。 わたしはもう存在していないから。 この場所から動けないから。だからこの場所で思い続ける。でも来ないから私は見つける。私と一緒に過ごしてくれるような。 優しい人。 そんな人を私は探し続ける。 この深い寂しい場所で。 ――あの時、俺は聞き逃さなかったぞ伊織……。「はぁぁ~~」 体の奥から為にたまった息を吐くように大きなため息が漏れる。 自分の部屋の椅子に腰を下ろして珍しく机に向かって勉強している俺だけど、まるっきり集中できないでいる。 原因は分かってるんだ。けど、確かめる事に対する勇気が持てないだけ。 あの子は確かに言った。しっかりと俺の前で。 「ただ私もあれが視えてるんだよって言いたかっただけだもん!!」] 無意識に上を見上げてしまっている。慌てて気付いて机に顔を向ける。の繰り返し。伊織に聞くだけなのだから、そんなに考えなくてもいいように感じるけど、今まで一緒に暮らしてきてそんな素振りの見せなかった義妹《いもうと》に、急に視えてるのか?なんて聞くことができるはずがない……だから困るいや大いに困っている。「どうすっかなぁ……」 もう何度目かわからないため息がまたもれた。 学校帰りのいつもの帰り道でふと目についた雑誌が気になってコンビニに立ち寄る。雑誌コーナーに置かれた週刊誌の表紙にカレンの写真が載っていたからだ。しかもほぼすべての雑誌にカレンか、もしくはカレン+セカンドストリートメンバーの組み合せで載っている。いよいよ本格的にトップへの道を駆け上がり始めた感じだな。 立ち止まってペラ